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2007年6月16日 (土)

三代目”紫苑” 01

ぱちぱちぱち、炎の穂がはぜる
ぱちぱちぱち、炎の穂がはぜる
 燃える炎の穂が、暗闇を映す。どれほど時が経ったのだろう。ススキの穂が一面に白く揺れ、ちらちらと雪の舞い散るように舞い散っていく。森の木々は、赤々と燃えるような鮮やかな色彩を放って闇に浮かぶ。紫苑は、ススキが嫌いだ。かつて、病に倒れた母を、自分自身の手で切り裂いた時も、ススキが白く揺れていた。
ひっそりと隠れるように住んでいる母娘以外に、人影が無くなって、既に10年以上になる山里。硬く敷き詰めた石畳も、草の芽吹きに砕かれて野に帰していく。陽光が、緋のように燃える木々を映し、白く揺れるススキの草原に風が流れていく。
 光も風も旅人なれば、時を止めることなく遷り往く。
 よわい四十を越えようとする母が、ススキの原に立っていた。緋に燃える鮮やかな木々を背に
十数歳の娘が、ススキの原を前にしていた。共に剣を腰に差す者であった。
「参ります」
「おぅ」
 娘が、しなやかに駆け出していく、受ける母は、痩せていた。柄を握る手の甲には、静脈が浮き出て、病んだ肌は恐ろしいまでに青白く、されど異様なまでに張り詰めていた。娘は、流れるように風に揺れるススキを乱さず駆け抜ける。
 母は、一瞬の流れを見切ったように、痩身の鬼が駆ける姿を放つようにススキの原を駆け抜ける。こちらも風に揺れるススキを乱すことは無い。母の剣刃が陽に映った時には、ススキの穂影に娘の体が消える。刃の放った力は、ススキに空隙を穿つ。娘の姿は、空隙を抜けて、大地を蹴り、天に舞う。剣刃が奔り、痩身の鬼を裂く。痩身の鬼は、一瞬に飛び退く。
 されど、痩身の鬼の左肩から、血飛沫が舞う・・・痩身の鬼は崩れ、母となった。嫌も応も無く、ただ病に倒れて尚、剣を握る手を休めず、オノレの病を切り伏せるかのように、子供のように仕合を求める鬼を止めることはできなかった。痩身の鬼は、強くしなやかに動く。手加減などすれば、死するは自分。死にたくはなく、母の求めるままに剣を奮い、そして一瞬の時が生死を分かつ。ススキの穂が血に染まるのが、今も剣を握る自分を斬り続ける。剣を握るとは、どういうことなのかと、剣を握り闘う自分に問い続ける・・・そして自分は”紫苑”となった。

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