2016年10月10日 (月)

歴史の重み

 丹波大江山を調べていて出てきたのは、但馬、丹後、丹波に跨る大丹波を勢力としていたというお話。従来、備前、備中、備後や、越前、越中、越後など前や後という名称がある国は、同一文化圏である、備の国、越の国といった国名があったのだろうという話は、聞いたことがあった。
 丹波を調べていくうちに、青葉山や北方交易の舞鶴湊とかが浮かび上がってくる。

 人が積み重ねた歴史の重みというのは、なかなかに難しいものである。小説として、歴史ifを描いているが、なかなかに描けば描くほどに、怖くなっていることが判る。様々に矛盾した歴史もあることもまた事実である。

 人とは、同じものにあらず、時が変われば、変わるのもまた人なのである。

 米国領沖縄生まれであるから、琉球郵便の単位がセントであったころを知っている。それすらも、思い出となった時代である。1$=360円が、1$=100円となれば、日本にとっての経済効果は、1/3となる。つまりは、昔はいるだけで、大金をおとす客だったが、最近はしみったれだ、いなくても良いじゃないか。
 経済の流れが、与えた影響というのは、そんなものである。だからと言って、その流れの中でおきたことは、そう簡単に覆るようなものではない。

2016年8月24日 (水)

宵闇堀川水運と宵闇斎宮院家

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 ファンタジーノベル大賞に、エントリーしました。

題名は、「あたしは、生きたい」
http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/377071170/

 講釈師、見てきたように嘘を吐くであります。
 宵闇では、京洛における堀川水運をかなり拡張しております。
 堀川水運について、平安期に幾度かの水利事業によって拡張され、鴨川が増水した場合の逃げ道としても活用された、このため、北部取水口となる、上堀川町あたりから南へ下ったあたりや、紫明通の南側、堀川の南端となる十条通りから南側には、人工的な遊水区画が数多く設けられていた。特に十条より南側の遊水区画は、鴨川の氾濫と重なると、時には大規模な氾濫となって、周辺一帯が水没することもあった。
 このため、堀川の水利は、一定の水量を確保することができ、水運利便が図られていった。この水利管理は、賀茂斎院へ寄進され、斎院の管理となり、京橋から鴨川一帯の京洛東側一帯の町衆からの運上金によって運営されていた。遊水区画一帯では、葦を中心に菜種や椿などが生産され、葦簾や葦紙などが生産品として加工されていった。葦関連については、賀茂座と呼ばれる許可制となっていて、巨椋池や河内湖を含めた川筋での葦生産拠点についても、賀茂斎院への寄進の対象となっていた。賀茂斎院は、鴨川や堀川の水利事業を鴨川や堀川を利用する船からの運上金だけでなく、葦および葦加工品の売買で賄っていた。
 賀茂斎宮家は、伊勢斎宮と共に、皇室からの皇女を迎えて斎宮家を形成していたが、平安中期頃より、賀茂斎宮家と伊勢斎宮家の二家を独立し、女性が当主として立つ斎宮院家となった。斎宮院家では、斎宮が婚姻する時に、主上から皇女を斎宮に迎えて、自らは斎宮院家の御台様となって婿を迎え、娘は次の斎宮候補となり、息子は院司となって斎宮院家を支えたと言われます。

鬼からノと取って鬼とす

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 ファンタジーノベル大賞に、エントリーしました。

題名は、「あたしは、生きたい」
http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/377071170/

 鬼と人の間に生まれた、|あやかし《ひとならざるもの》が、生きたいという思いから、様々な紆余曲折を経て、人としての生きられる場所を築くという内容にできれば良いなぁと思っています。表現等の状況から、当初R-15でいけるかなと思ったのですが、難しいかなと思ったので、R-18へ変更をおこないました。

2016年4月27日 (水)

戦国転生宵闇綺談02

史実では、「桶狭間の戦い」と呼ばれた合戦編となります。
 うつけと呼ばれた、信長と、東海道一の弓取り、今川義元の対決です。
 織田VS今川は、実際には、伊勢湾沿岸の海運利権を巡る争いであったようです。
 両者の激突は、今川軍有利で進みます。安祥城の確保と松平党人質奪還は、知多半島東側沿岸の制海権を確保しつつ、「鳴海」「大高」を巡る、知多半島西側沿岸における制海権を求めて今川軍が展開をすすめます。織田軍は、「鳴海」「大高」の周辺に、丸根砦、鷲津砦を築き、今川軍の展開阻止をはかります。
 大軍をおこして、織田勢の阻止線を叩き潰し、津島への道を開くのが、今川義元の目的でありました。
 良く、今川義元による尾張侵攻は、天下を求めたかどうかで論議されることがありますが、尾張侵攻の目的としては、伊勢湾沿岸の海運利権を確保すること、今川義元は、伊勢湾を巡る海運利権を求めるために、津島湊を確保するということであったように思います。
 また、当時、万を超える軍勢を長期に稼動させるための準備には、かなりの時間がかかると推定されます。今川義元の目的が略奪でなく、津島湊を中心とした伊勢湾沿岸の制圧と利権確保とすれば、一定の規律下で軍勢を稼動させる必要があり、そういった意味合いでは、年単位で準備期間が必要と判断します。
 史実でも永禄元年頃に実施された、今川氏実への家督相続が尾張侵攻開始に向けた第一歩となります。


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 好男子ではなく、講談師という奴は、見てきたように嘘を吐くと申しますが、それも時には、真実が混ざっていたりするものであります。
 遠州は井伊谷城の宵闇のなかで、|井伊直真《いい なおざね》と、|井上篭《いのうえ こもる》は、褥の中で、二人は愛の誓いを交わします。

 天才対決は、織田信長VS今川義元のことですが、この作品は、対決する主役ではなく、脇役の脇役である方々なので、緊迫感はあんまりありません。

 弘治四年正月は、永禄元年正月でもありますので、ちょうど、今川義元が尾張侵攻の準備を開始した頃のこととなります。桶狭間の戦いが永禄3年9月頃なので、今川義元様は、三年くらい準備に要し、万全の体制で尾張侵攻に臨んでいたと考えられます。
 対する織田信長様は、大高城、鳴海城を抑えるため周辺にいくつもの砦を築き、今川との対決に備えております。ここらへんの状況から、焦点は、伊勢湾西側の海運利権という捉え方ができます。今川も織田も、伊勢湾制海権確保を目的として、様々な策謀を巡らしております。そういう意味では、尾張侵攻というより、津島湊への侵攻という方が正しいかもしれません。

 史実の中では、義元公が、戦略的優勢に進めて、広範囲に展開させたところを、信長公が一発逆転を狙って、今川軍の前線を浸透突破して、義元本軍を撃破という結果になっています。
 準備段階では、戦略的に大規模戦の準備を進めた今川軍に対して、戦略面で対応できない信長公は、作戦面で城と砦を複数築いて防衛線を構築しています。これは、大軍になるだろう今川軍を点で止めるのではなく、線で止めて前線を広げさせると共に、浸透突破をしやすくするためと考えられます。
 これは、信長公と義元公の戦略目標の違いから来るものと推定されます。義元公が、津島湊を含む海運利権の確保を目指すのに対し、信長公は、義元公の首を獲ることを目標としています。結果としては、義元公は、占領地確保のために、大軍を分散配置することとなり、信長公の浸透突破を許し、首を討たれたという史実に繋がります。

(大きな歴史の流れは変わってない感じだけど、祐様にとってはどうなのだろう?義元公が生きている方が良いのかな?死んだほうが良いのかな?史実では、直親殿が敗戦の中で戦死してしてしまうから、それを救う方法は考えた方がいいだろうなぁ・・・)
とまぁ、史実が起きることに対して、|篭《こもる》君は、どうすべきかということそのものに悩んでおりました。
(恋敵でもある、氏真の味方をするというのも、微妙だしなぁ・・・)
ちょっと、、|篭《こもる》君の私情を挟んでたりもします。
(鍵を握るのは、誰だっけ?本陣の位置が桶狭間かどうかは不明だけど、本陣の配置を決めたのは義元本軍の前衛を努めていた奴だったハズ?しかも、本陣襲撃の際には、大高城に居て戦って無い。本陣の位置が織田方にバレタとすると、そのあたりが怪しいという話だった気がする)


 二人の閨での宵闇綺談は、かなり生々しいところがありました。三河を巡る信長の父信秀と今川義元の争奪戦。一時期は、信秀も安祥城を攻め落とし、計略をもって松平党から今川への人質を横取りし、三河を掌中に収めたかに見えましたが、ところがどっこい今川義元も負けてはいない。
 太原雪斎を大将に軍を派遣、安祥城を攻め落とし、城主であった織田信広を捕らえます。この信広と|千千代姫《ちずよひめ》の人質交換を実施し、三河松平党をまとめると、三河から織田勢を叩きだしにかかります。
 井伊直盛らを安祥城の城代に派遣、三河松平党の当主|千千代姫《ちずよひめ》と遠州井伊家の|祐姫《ゆうひめ》を嫡男の側室に迎えて、三河、遠江、駿河の支配権を確立していくというものでした。
 また、相模の北条から氏康が息女早川殿を正室に、娘を甲斐の信玄が嫡男に嫁がせ、甲相駿三国同盟を締結する。北条は関東へ、武田は信州へ、今川は西へと向かうために、後方の安定を確保することに成功していた。


 来年の正月は、三河、遠江、駿河の国人衆が、軒並み駿府への呼び出しを受けていた。かなり大きな事柄が発表されるらしいという噂が流れていた。
「つまり、御館様は、若殿に家督を譲られると?」
「多分、家督を譲って、若殿に後方支援を任せ、自分は合戦の準備を進めるんじゃないかな」
「それだと相手は、織田になるな」
「うん。前にも話したけど、御館様は、甲相駿の三国同盟で、西へ向かうための体制を整えた。多分、伊勢湾沿岸の海運であがってくる利権を確保するのが、最終的な目的になると思う」
「伊勢湾?かなり広くないか?」
「水野が今川に付いて、大高城が落ちれば、知多半島一帯が今川の勢力圏になる。知多半島を抑えれば、津島の湊を抑えにかかることができる」
「織田は、どう出てくるんだ?」
「津島を抑えられたら、織田は滅亡するというか、もう今川と戦う力も斉藤と戦う力も無くなる。だから、絶対に阻止するために動くというか、動くしかないし、清洲に篭城するという選択は無い」
「無いのか?御館様だって、清洲城はかなり遠いし、城に篭もられたら、攻めるのは難しいと思うぞ」
「ん。信長が清洲に篭もったら、御館様は戦う必要が無くなる。水野を助け、そのまま尾張の南部と津島を抑えれば良いもの」
「あ。そうか。津島は、清洲の南だから、わざわざ清洲まで行く必要は無いんだ」
「そういうこと。で、|祐姫《ゆうひめ》は、どっちが良い」
「え。どっちって?」
「前に話したように、井伊家そのものは、今川と織田の戦に巻き込まれるけど、どっちが勝っても、多分、生き残る道はある。だから、どちらに勝ってもらいたいかってこと」
「井伊家は、今川方だぞ?」
「うん。でも、御館様がこのまま負けて、死んだとしても、若殿様や|祐《ゆう》が死ぬわけじゃない。生き残るだけなら、織田との大戦に関わらなくても良い。だから、|祐《ゆう》がどうしたいかってこと」
「あたしが、どうしたいか?」
「うん。僕は、|祐《ゆう》を守りたいもののためにできることをしたい。何ができるかはわからないけど、」
(異世界転生なら、チート知識って?あんまり無いし、ここには魔法とか、もののけが住んでるけど。何か好きな|女のひと《祐姫》のためにできれば良い・・・なぁ)
「あたしは、御館様は鬼娘の色が強いあたしを若殿の側室に迎えてくれた。それに、お前には悪いが、若殿も、大女になったあたしを、女としてはともかく、大切にはしてくれている。だから若殿のために戦う方が良い。|千千代《ちずよ》様や若殿も含めて、出来る限り守りたい」
「わかった。|祐《ゆう》。僕も、出来る限り思い出してみる。なんとか、御館様を守れるように考えてみるよ」
「ありがとうな。|篭《こもる》」
そのまま、宵闇の褥に|篭《こもる》を押し倒す|祐姫《ゆうひめ》であった。

 宵闇の中では、睦み逢う二人ではあったが、弘治四年正月の駿府で行われる年末年始の挨拶を兼ねて、居館である井伊谷城を弘治三年師走に出発することとなった。|篭《こもる》を連れて、|龍潭寺《かつての自浄寺》に向かい、|篭《こもる》を大婆様に預けて、駿府に向かうこととしていた。
「ねぇ。城で待っているっていうのは、ダメなの?」
「|彩女《あやめ》や|狗賓《くびん》達も、年末年始は大婆様に預けるし、大婆様には、篭のことは文で説明しているが、直接お話して、預けておきたいんだ・・・何かあるのか」
「え。だって、僕は、公にできない|男妾《おとこめかけ》だから、あんまり親族と顔合わせない方がいいんじゃないの?」
「|篭《こもる》。お前は、あたしの|夫《つま》だから、それに大婆様には、きちんとお前を紹介したいんだ。確かに、あたしは、主筋の側室でもあるからな。あまり褒められたものじゃない。だけど、あたしは、遠州の次期領主でもあるからな。国許にお手付きがいるのは、若殿にも諦めてもらうさ」
「大丈夫なのかな?」
「女領主には、男の側室が多くなるのは良く在るぞ、越後の領主にいたっては、側近は全員側室だって噂だ」
「越後の領主って、長尾影虎のこと?女の人だったの?」
「ああ。女性だと身重になったりするし、子供を増やすには都合が悪いけど、誰の種でも、自分の子供だってことになるからな。嫡子相続は、鎌倉以来の御法だからな。女領主は、多くは無いけど、珍しくも無いぞ」
「そうなんだ・・・|祐《ゆう》が良ければ、僕は構わないよ」
(なんか、色々と史実と雰囲気が違うなぁ・・・)

 井伊谷城から、|龍潭寺《かつての自浄寺》までは数キロ程度、馬で10分程度で到着する。龍潭寺は、井伊谷城から浜松城の途中にあり、森の中に築かれていた寺で井伊谷宮と併設されていて、井伊家発祥の地となっております。
 かつて、龍潭寺の井戸に捨てられていた捨て子が、井伊の初代である井伊共保だと伝承されているのです。
 さて、井伊家の菩提寺でもあることもあって、龍潭寺の住職は、代々、井伊の一族が努めておりました。現在の住職は、直真の祖父直宗が娘で、|玲姫《れいひめ》様こと松玲院姉が努めておりました。|玲姫《れいひめ》様は、直宗様が娘となっておりますが、養女でありまして、南朝の宗良親王と一緒に戦った、井伊道正との間に生まれた|尹良親王《これながしんのう》が源姓を賜って、臣籍となり、|源良王《みなもとよしおう》に連なる一族の娘で、諸国を放浪して後に龍潭寺に匿われた。今川との争いの中で囚われ、氏輝の側室となり、遠州井伊家が今川家に従う人質となった。氏輝が亡くなった後は、剃髪し、松玲院として、龍潭寺の住職となった。松玲院様が、|祐姫《ゆうひめ》様の大婆様ということになります。

「大婆様。祐が参りました」
「ようきた祐や。今年も健やかであったか?」
龍潭寺の広間で、対面したのは、養祖母と言われた、松玲院様なのですが、お年は40を超えていて50に近かったような気がしますが、まだ30程にしか見えない、美しさを持った女性でありました。
「はい。あまり病にかからず、健やかに過ごせました。これも、|彩女《あやめ》や|狗賓《くびん》達のおかげにございます」
「ほほほ。彼奴等は、自らがそなたを選んだのじゃ、気にすることは無い。ま、健やかであればよいさ。ところで、その後ろの御人が、お前の|男《おのこ》かや」
「はい。|井上篭《いのうえ こもる》と言うあたしの|夫《つま》にございます」
「ほお。そなたが、駿府の氏真様が室というのは、承知なのかの」
「はい。それは、伝えてあります。これから、浜松の城に出て、駿府に向かいまする」
「ほぉ、|篭《こもる》殿も駿府へ連れて行くのかや」
「いえ。さすがにそれはできません。大婆様にお預けしたく、龍潭寺へ連れて参りました。なにとぞ、よしなに願いまする」
「ほぉ。ここにか。|彩女《あやめ》や|狗賓《くびん》達と共にかや」
「はい。井伊谷の城や浜松の城に預けとうはなく、どうかお願いいたします」
「|篭《こもる》殿は、どうかの。ここにおるよりは、浜松の城の方が、なんぼか人も多い。わざわざ、もののけと住むこともなかろうに」
「僕は、この地に神隠しに逢って、連れてこられました。そこで|祐姫《ゆうひめ》様に出逢ったのは、何かの縁であろうと思います。もののけは怖いと思いますが、皆は優しく接していただきました。知らぬ者達と共にいるよりも、もののけ達と共にいることを選びとう存じます」
「お前が気に入らねば、喰らうかもしれぬぞ」
「僕は、まだ余所者ですから、そうなるかも知れません。できるかどうかわかりませんが、鬼の血を引く姫を愛するのであれば、それを乗り越えなければならないと思います」
「まっこと、覚悟できるかや」
「僕は、まだ死にたいわけじゃありません。だから、せめて腕一本くらいで許していただければと、喰らおうとする者にお願いします」
「ほほほほほ。面白い|男《おのこ》をみつけたの。祐や」
「は」
「ま。|彩女《あやめ》や|狗賓《くびん》達が良ければ、|妾《わらは》は、構わぬよ。好きに住まうが良い」

「「ありがとうございます。大婆様」」

 好男子ではなく、講談師という奴は、見てきたように嘘を吐くと申しますが、それも時には、真実が混ざっていたりするものであります。
 遠州は井伊谷城の宵闇のなかで、|井伊直真《いい なおざね》と、|井上篭《いのうえ こもる》は、褥の中で、二人は愛の誓いを交わします。
例年正月には、三河、遠江、駿河の国人衆が、御館様へのご機嫌伺いのため、駿府へと向かいます。特に、今年は出来る限り多くの国人衆の参加が、御館様から呼びかけられていました。これは、井伊谷城の|祐姫《ゆうひめ》こと|井伊直真《いい なおざね》も同じで、遠江の国人衆をが師走の10あたりから、浜松城へ終結し、遠江介である父直親が三河の松平衆をまとめて浜松を経由し、三河遠江の国人衆と共に、駿府へと向かうこととなります。

一人、残されることとなった、|篭《こもる》は、龍潭寺の住職にして、父井伊直盛が養母、松玲院様の元へ預けられることとなりました。


龍潭寺の客間にも、井伊谷城と同じく、宵闇の褥には、鉄蓋がされた壷を4個、褥の四方に置かれていた。壷が非常に熱くなっていて、どうやら中で火が焚かれているようだが、鉄蓋がされているのに消えないみたいなのである。
「ねぇ。|彩女《あやめ》さん」
「どうかなさいましたか」
「あのさ。この壷は、中に火を入れているの?」
「はい。これは、炉壷と言います。中に狐火を入れて暖めています」
「火ってさ、壷の中に入れると消えちゃうけど、狐火は消えたりはしないの?」
「そうですね・・・」
小首をかしげて、指先に小さな狐火を燈す。橙色の穏やかな炎がゆらめく。
「狐火にせよ、鬼火にせよ、術者の力で燃やしています。術者の力が尽きない限りは、消えたりはしません」
「そうなんだ。でもさ、縄とか近づければ燃えるよね」
紐を狐火に近づけると、ぼぉっと炎が移る。ふっと、吹き消して
「はい。だから、炉壷の守をするのが、我等の務めです」
「かなり、大変じゃないの?」
「そうですね。普段であれば、姫様の部屋だけですが、ここでは、大婆様の部屋に8人と篭様の部屋を4人と12名で対応しております」
「4人で大丈夫なの?」
「こちらには、私がおりますから、他の者は、私が休む間だけ、3人で対応することとしています」
「無理はしなくても良いよ。こっちの部屋は、炉壷を2個にしようよ」
「篭様に風邪など召されては困ります」
「大丈夫、流石に炉壷が無いのは寒いけど、炉壷2個でも暖かいから大丈夫だよ」
「はぁ・・・本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だって。ねッ」
「わかりました。寒ければ、いつでも仰ってください。それに、咳などするようでしたら、無理にでも炉壷を増やしますので、そのおつもりで」
「うん。わかった。ありがとう・・・」
(炉壷って近くだと、暖かいではなく熱いって感じだから、昔の石油ストーブみたいな感じだよな。だとすると、水を暖かくすることもできるかな?お風呂を作れるかなぁ・・・洞窟の中だと、|祐姫《ゆうひめ》の鬼火で周囲を熱くして、水に入ってたからな)
「どうなさいました」
「いや。ムクロジってこの寺にもあるのかな?」
(ムクロジって数珠の材料だって言っていたよな)
「はぁ、ムクロジであれば、この寺にも何本かは育てておりますが」
「実をね、集めたいんだ」
「数珠でもお造りになられるのですか?」
「違うんだ。ムクロジを砕いて漬けた水で、体とかを洗う時に使うと汚れが落ちやすいんだよ」
「京洛の|湯女狐《ゆなぎつね》のお話ですね。ムクロジ粉ならありますよ」
「京洛って、京の都かぁ、|湯女狐《ゆなぎつね》って何」
「そうですね。話に聞いたところでは、狐火で湯を沸かし、無患子の粉や米糠を使って、身体を洗ってくれるのが|杜湯《やしろゆ》というそうです」
「このあたりには無いの」
「そうですね。戦乱が続いて、湯女狐も多く亡くなられたと聞きます。また、人の血が入ったためか、狐火が上手く使えない狐も増えて、|杜湯《やしろゆ》は京洛でもほとんど残ってないと聞いています」
「|彩女《あやめ》さんはできる?」
「湯を沸かすのに使うと、夜の炉壺が使えなくなります。夏場ならばできますが、冬場の時期は難しいですね。姫様がおられたら、一人で熱湯にできるかと思いますが火傷するでしょうし」
「ん~。狗賓達は炎は使えないの?」
「はい。彼らは、炎というより風使いですね」
「そっかぁ、他に使える人っていないのかな」
「それは・・・あ」
「いるの?」
「居るには、いますが、|河原者《カワラモノ》衆のカグチですので、宮に入れるわけにはいきません」
「|河原者《カワラモノ》衆?」
「はい。山々に住み漂う者達で、鍛冶や獣の皮、|屍骸《むくろ》を扱っているのが、|河原者《カワラモノ》衆にございます」
「皮もあると、暖かいし便利だから欲しいな」
「お待ちを、|篭《こもる》様。あれらは、|賎しい《いやしい》者達にて、付合ってはなりませぬ」
「賎しい?」
「はい。鹿、狐、鼬といった獣達を狩り、肉を食い、山々を巡って鉄や銅を扱い、毒液を撒き散らす、賎しい者達です」
「鍛冶は、刀や釜を造るのに必要だし、獣の皮も暖かいから、寒さをしのげるよ」
「ですが、我等を狩る者です」
「あ」
(そういえば、|彩女《あやめ》さんは、狐さんだった)
「ですから、ここに呼んではなりません」
(そうだよな。自分達を狩る相手だから、でも、|賎しい《いやしい》というのとは違うよね)
「|彩女《あやめ》さん。狐や狼、鹿や熊とかを狩る者は、確かに敵だから、|彩女《あやめ》さんが傍に来て欲しくないとか、嫌いだというのは正しいよ。でもね。|賎しい《いやしい》ということと、敵は違う。それは解ってもらえるかな?」
「え。えぇ。ですが、敵を賤しめ・・・」
(それは、ダメ。だから、指で口を抑えて)
「待って、敵であっても、同じ|生命《いのち》だって考えて」
「はぁ・・・でも、城主さまも、|賎しい《いやしい》者達と呼んでいましたし、間違っていないと思いますが。いけないのですが」
「|彩女《あやめ》さん。敵だから殺しあうんじゃない、自分の命を狙うから殺しあうんだよね」
「はぁ」
「ごめん。少し、|遡って《さかのぼって》、話すとね。僕のいた世界では、渡辺綱が大江山で鬼退治をおこなって、酒呑童子や茨城童子を含め、|数多《あまた》の鬼達を殺していった。結果として、鬼だけでなく、もののけすべてが狙われて、僕のいた世界では、鬼や天狗、狐達もみんな”あやかし”と呼ばれて殺されていったんだ」
「そんなッ。我等は何もしていませんのに」
「そうだね。鬼が鬼であるだけで、敵では無い。自分を殺そうとする者は敵で、敵であれば殺さなければ、この考え方に執着すると、敵はすべて殺さなければならなくなるよね」
「では、われらも人に殺されてしまうのですか」
「この世界は、きっと変わったんだよ。渡辺綱は、自分と殺しあう相手の鬼の娘を愛して、妻に迎えた。鬼と人を繋いだんだ。僕は、|祐姫《ゆうひめ》に愛されて、愛して、結ばれたよ。そして、|祐姫《ゆうひめ》には、渡辺綱は、人が鬼を嫁にしたから、今度はあたしが人を婿にするって言われたよ」
「|祐姫《ゆうひめ》様は、大江山のお話がお好きでしたわ。自分も渡辺綱のように生きたいって仰られてましたし」
「でもさ。考えてみて。僕は弱いからさ、|祐姫《ゆうひめ》の敵になったら、簡単に死んじゃうよ」
「えぇ、それは当たり前です。|篭《こもる》様くらいであれば、私でも殺せますよ」
「でも、僕は、殺されていないよね」
「それは、|祐姫《ゆうひめ》様の大事な方ですから」
「でも、僕を殺せる力がある」
「はい。間違いなく」
「僕は、僕を殺せる相手に守られて、夜を過ごす」
「えぇ。でも殺したりは、しませんよ」
「うん。じゃぁ|彩女《あやめ》さんは、自分が|賎しい《いやしい》と呼んだ、河原者《カワラモノ》衆の中で眠れる?」
「そんな。何時殺されるかもわかりませんのに・・・あっ」
「ほらね。僕は、気にせずに眠るから、構わないけど、普通は、一緒に生きることが難しいんだ」
「そうなのですか」
「相手の河原者《カワラモノ》衆の人だって同じだと思うよ。熊や狼に無防備であれば、殺されてしまう。油断すれば、殺しに来れる相手、普段は狩りの相手として殺す相手と一緒に寝るって、とっても覚悟のいることだと思う」
「 |祐姫《ゆうひめ》の命を狙うような人が居れば、僕は全力で戦う。戦えるかどうかはわからなくても、|彩女《あやめ》さん達や|狗賓《くびん》さん達を含めて、守りたいものを守るために戦うよ」
「はぁ・・・ありがとうございます」
(あ、なんかお情けっぽい目でみられた)
「でも、昨日は敵だったけど、今日は味方になるってことだってあるよ。大婆様だって、南朝宮様の末裔として戦ってきたけど、今は今川家に仕えているでしょ」
「は。そうですね」
「ねぇ、|彩女《あやめ》さん」
「はい」
「これだけ、覚えておいて欲しいんだ。
 天地の狭間に在って、|生命《いのち》あるものは、すべて等しく|魂魄《こころ》を宿すモノ。
確かに、|屍骸《むくろ》を扱えば、穢れは多くなるかも知れない。
|鉱石《いし》を扱えば、毒液を生み出すかも知れない。
でもね、誰かが扱ってくれなければ、穢れが溢れ、疫病が蔓延し、|生命《いのち》が奪われる。
|鉱石《いし》を扱わなければ、鍋釜も造れず、刀や槍も造れない。
誰かがやらねばならぬことを勤めとしてくれる者達でもあるんだよ」

「それは、確かにそうですが、怖いのです。|狗賓《くびん》達であれば、戦うこともできましょうが、我等は彼らから逃げ隠れすることしかできません」
それは、仕方ないよ。僕だって、|彩女《あやめ》さんが怖いよ。僕が|祐姫《ゆうひめ》の邪魔になったら、殺しに来るでしょ」
「|篭《こもる》様・・・」
「それに僕のことは、だんだん噂になるよね。もし、|氏真《うじざね》様が、僕の存在を許してもらえななければ、|祐姫《ゆうひめ》が困った立場になるから、|彩女《あやめ》が僕を殺しちゃってね」
「|篭《こもる》様。何を仰います、|祐姫《ゆうひめ》様が、そのようなことを言われるはずがありません」
「でも、僕は、|祐姫《ゆうひめ》を困らせたくないし、駿府の知らない人や恋敵に殺されるぐらいなら、|彩女《あやめ》さんが良いなって思うよ」
「それは、そのときに考えます。だから、今は仰らないでください」
「うん。わかった。でも怖いことと、|賎しい《いやしい》ことが違うというのは、解って貰えた?」
「はぁ。でも、それでは御城主様とかが、間違っておられるということなのでしょうか」

(間違っているわけではないけど、正しくも無い。嫌いだから石を投げたのでは、証拠が残るし、戦うこともできる。だけど、話をするしないは、本人の自由で、付き合う相手を選ぶことも本人次第。話すことを強制すされる場所で取り繕えば、それ以外の場所では、決して表になることは無い)

「そうじゃない。みんな自分が強いと思いたいし、怖いと言いたくないから|賎しい《いやしい》と言って、近づかず、見えないことにすれば、自分が穢れを受けることも無い。
 だから、河原者が、そこで死体を片付けていても、見なかったことにする。そんな存在は居なかったものとして扱えば、自分は穢れを見ていないから穢れない。
 人ってさ、牙を持たず、魔道も使えない、弱い生き物だから、すべての|生命《いのち》に怯えて生きている。
 牙の代わりに、刀を手にして、刀を使いながら、刀を|河原者《カワラモノ》から手に入れる。獣の皮で出来た鞍に乗っていても、獣に触れることができない。
 銭を使いながら、銭を造ることを嫌い、視ることを嫌う。
 それは、すべて弱さや悔しさ、憧憬や畏怖が生み出したもの」
「弱さと悔しさに、憧憬や畏怖ですか」
「うん。自分ができないことをする。それは、良い意味にも悪い意味にもなってしまう。僕はね、捨て子だったから、親がいないままに育てられた。それもあってか、育っても子供らしくなくて、老成しているように見えたのだろうね。だから、良くイジメにもあったんだ」
「イジメ?」
「そこに居るのに、居ないことにする。存在を感じたくないから、話しかけない。これを周囲の人達がみんなで実施すれば、イジメッコの出来上がりってね」
「|篭《こもる》様?それは・・・」
「僕ね。相手が良く解らなかった。目の前で、イジメてくる相手とは戦える。だけど、目の前に居ない相手とは戦えない。認めれば、取返しはつかない。だから、目立たないように、人と同じように生きてきた。でもね、強く生きるモノが好きだった。そう|祐姫《ゆうひめ》のように」
「姫様のように、強く生きるモノですか?」
「そう。僕の世界では、大江山の伝説は、御伽噺に聞いたことがある。鬼を|騙《だま》して、鬼を討ったヒーロー源頼光と配下の渡辺綱、坂田金時、碓井定光、卜部季武。悪さをする鬼を退治した英雄と言われている。だけど、僕には酒を飲ませて|騙し討ち《だましうち》をした彼らがヒーローには思えなかった」
「この世界では、違ってた。渡辺綱が、鬼の姫を愛して、大江山で鬼族の長と戦って勝つことで認めて貰い、源頼光達にも認めさせて、姫を嫁に迎えたって」
「はい。姫様がお好きな御伽噺でございますわ」
「うん。だからこの世界の渡辺綱は、本当のヒーローだって思う。まつろわぬモノを、騙して剣で討てたとすれば、それは自分の子孫が、誰かに騙されて討たれる世界を生み出す。結果は、騙し騙され、信じられず、認められない。そんな世界が広がってしまう。そんな世界は嫌なんだ」
「そんなことが起きるのですか」
「戦があれば、力有るものは、役に立つから使われる。だけど、戦が無くなれば、力有るものは、要らなくなる」
「そんなものなのですか」
「簡単でもないし、時間もかかるだろう。|生命《いのち》の危険が身近にあれば、助け手は、神様のように大事にされる。だけど、|生命《いのち》の危険が去って、世代を重ねると気になるのさ、自分に無い力を持つ者そのものが」
「つまりは、親の代はともかく、孫子の代まで信頼されるとは限らないと」
「人間同士ですら、昔の大陸では起きたことだ。建国の忠臣は、治世の奸臣として裁かれ殺される。親が死んだら次の代にとっては危険な存在を消そうと、子孫を殺そうとする、そんな例がたくさんあるのが、人間と言う生き物の歴史なんだ。僕は、それをちょっとでも変えていければ良いなぁって考えている」
「どうすれば、良いのですか?」
「まずは、出来る限り多くの血を混ぜて、拡散していくことかな」
「人と子をなし続ければ、どんなに尊き血でも、血族に別の血が生まれることを止められなくなる。既に、鬼の血は、三百年は人に混ざり、拡散しているし、他にも多くの血が自分の体に潜んでいるんでしょ」
「それは、狐にせよ天狗にせよ、あまり変わりません。純粋な者は、ほとんど居ないと思います。先ほど申し上げた、|河原者《カワラモノ》衆のカグチは、母親のホトを焼いて生まれたと言われております」
(ホトって、イザナミの子供とおんなじってこと?)
「ホトを焼くって、カグツチということになるの?それだと、神代の方ってことになるんじゃないの?」
「|河原者《カワラモノ》ですので、神代の扱いは受けておりませんが、われらでは傍によるのも難しゅうございます。姫様は、あまり気にせずに、時折、遊びに行っておったようです」
「ようです?」
「はい。私達は、近づけませんでしたので、お帰りになられた時に、幾度かお叱りしても、気にされずに出掛けておりました」
「まつろわぬ者が鬼達として、剣で追われることもなく、人に繋がる世界。そんな世界で生きることができるなら、僕も、自分らしく生きていられるのかなって思ったんだ。
 死ぬことは怖くても、それ以上に好きな人と一緒に居られる世界で生きられることの方が重要だから。
 そして、貴方達と一緒に暮らしたいし、生きている|生命《いのち》を持ち、|魂魄《こんぱく》を抱くモノすべてが、生きることを許容できる世界にしたいな」
「生きることは、許容するものなのですか?そこに生きているモノを嫌いだからと言っても、生きているのを止められないですよね」
「でもね。とっても小さい生き物だと、生きていても気づかないように、見えない、聞かない、気づかないようにしようとすれば、そこに生きている|生命《いのち》も|魂魄《こんぱく》は映らない」
「そんな」
「敵となれば、死に物狂いで戦うは正しい。味方であるなら、助け合うことも正しい。居るのに居ないとするのも、居ないことをあたりまえとするのも、僕は嫌いだ」
「はぁ・・・」
(|戦《いくさ》に強いから認められるならば、|戦《いくさ》が消えれば、消されてしまう。そんなことは認めないし、認めさせない)
(|祐姫《ゆうひめ》は、戦が無い世界を哀しんでいた。多分、戦があるから、自分が居られると思っている。僕は、戦が無くなっても、|祐姫《ゆうひめ》が暮らしていける世界にしたい)
「だから、悪いけれど、明日は|河原者《カワラモノ》のカグチに逢いに行くよ。遠くからで良いから、近くまでは案内してね」
「いいえ。|篭《こもる》様が、仰られることは、よくは判りませんが、わたしは、|篭《こもる》様とご一緒いたします」
「ありがとう。|彩女《あやめ》さん。でも、ほんとに怖かったら、無理しないでいいからね」
「いえ。わたしが望んだ事です」
ゆっくりと、褥に入ってくる。
(え。あれ。何?)
「あ。あの、|彩女《あやめ》さん?」
「姫様には、|篭《こもる》様が不自由されないように頼むといわれました」
「え。でも・・・」
「殿方は、気にしてはなりません・・・」

とっても、仲良くなったそうな。どっとらはい。

 過去は記憶に、未来は夢に、存在は今という時にのみ在り。
 過ぎ行く時は、過去となり、消えゆくもの。
 来るべき時は、未来であり、夢幻のごとく。
 ただ今という時に在りて、人は思い描く。


2016年4月 6日 (水)

宵闇綺談 大江山伝承 鬼の嫁入り 連載中

<宵闇綺談 大江山伝承 鬼の嫁入り>
http://ncode.syosetu.com/n6423de/

大江山伝承 鬼の嫁入り 連載中
 18禁作品、エロ控えめ?
小説家になろうノクターン投稿作品 大江山の鬼退治を「転生風味歴史ifモノ?」としてみました。
<あらすじ>
 史実で言うと、|源頼光《みなもとのよりみつ》による大江山鬼退治の一幕から歴史が変わります。主役は、頼光四天王が一人にして、源氏物語のモデル|源融《みなものとおる》が嫡流、|渡辺綱《わたなべのつな》となります。|あやかし《ひとならざるもの》達の歴史が変わります。
 平安ゴーストバスターズ?が、|あやかし《ひとならざるもの》を愛してしまったら、歴史が変わる!!

2016年2月24日 (水)

戦国転生宵闇綺譚01

 あやかし達が人の近くで暮らし、時には夫婦となったりしている。そんな日本を描いてみました。
 背景譚が序章となります。
 歴史ifファンタジーとして実装するのが、あやかし達の居場所である。鬼、河童、雪女といった様々な妖怪変化が住んでいたはずなのだ。そういった妖怪変化が実在し、魔道を用い、住まえるような世界でないとつまらない戦国と言える。山々は竜が住まい、鬼が集い、狗神や狐狸が駆け抜ける。そんな世界が好きで描いてみました。

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序章

 さて、ようやく描き始めます。
 個人的には、戦乱の幕開けとも言える、北条早雲あたりとかが時期的には好き。
 下克上の代表は一揆であり、戦国の世で一揆の目的は、食い物が無くて、食い物を奪う者への反逆であった。これは、戦争についても同じで、収奪的な要素が強かったのも、自分の民を食わせるために、他国の民から食料を奪うための戦争ということになる。
 参加する者達にとっても、飢餓に苦しめば、戦い奪う先に、生を得るという発想も生まれ、宗教的に後生御免(死後に極楽往生できる)を持って、戦いに追いやる力となっていた。
 正史の信長の戦争が、基本的に本願寺との闘争であったのは、権益という側面もあるが、一揆という下克上を推進する側と、撲滅する側との戦いであったとも言える。
 ここは、正史ではない、戦国ファンタジーifなので、正史上にも存在した人物については、背景はある程度そのままですが、かなり歪んでいます。また、ファンタジー系の亜人が正史上の人物と被ったりしますので、正史のキャラ好きの方は、覚悟をしてください。
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 戦国時代は、戦乱明け暮れる世を、江戸時代くらいから振り返って見ると、戦国という言い方ができるのだろう。そこから、戦国時代という名称そのものが生まれた。平安時代から鎌倉時代という、武士の幕開けを迎えた武家が、鎌倉時代の終わりに南北朝争乱から貴族による揺り戻しやらを乗り越え、室町時代を形成していく。
 されど、その中では、様々な権力闘争があり、武家らしく内紛が戦闘となり、戦争となるような武家の時代を構成していった。武家の時代というのは、本質的には、闘争の時代と言えるだろう。闘争の時代は、大きな流れを生み出していった。そして、中央権力が失墜していく戦国乱世となったことで、様々な者達にとっての変化の時代となっていったのである。


 もうひとつの流れが、鬼や土蜘蛛、河童といったあやかし達の流れである。彼らは亜人と呼ばれ、同じ地域に住みながら異なる種族というイメージがあった。あやかしの力を持つ彼らは、戦争の中で頭角を表し、時には地侍から地頭と呼ばれるようになった者達もいた。また、闇に潜み、闇に紛れやすいことから、忍びや乱波といった者達になったものもあった。結果として、古来より混血も進み、人と変わらぬ姿を持つ者や、異形の姿を持つ者も多く、良いにつけ悪いにつけ、様々な軋轢の原因ともなっていた。


 武士を名乗れば、武士となれた時代。時代を斬り拓く時代は、様々な存在にとって、転機でもなったのである。
 「武士の本懐」という言葉がある。武士によって、様々な捉え方をされているが、本質的には、内紛や戦闘という戦争が身近にある世界で、己や一族の命や命運をかけて戦い続けざるを得なかったモノ達の描く、「本懐」とはどのようなものだったのだろう。
 当たり前だが、戦国大名と呼ばれている者達は、自分自身が戦国大名と呼ばれていることを知らない。


 古代から室町までの流れは、中央権力の象徴である、天皇家にしても、将軍家にしても、統治能力を維持していた時代であった。この統治能力は、家と領地を保護するというものである。南北朝より始まり、室町の流れの中で、中央の統治能力は徐々に低下し、嘉吉の乱(1441)で生じた将軍義教暗殺は、権威失墜の象徴とも言える事件であった。
 つまりは、当時の体制として、家の相続と守護といった役職の相続は別であった。関白が藤原の流れから選ばれるとしても、それは明文化されているわけではなく、今までの権力闘争の流れの中で勝ち得た権利に過ぎなかった。
 中央の役目とは、権益が守護や地頭について回るとした場合、彼らの利害関係を調整することであり、この役目が果たせなければ、地方政治の安定は得られなくなる。結果としては、地域での政治闘争がそのまま地域紛争となり、軍事闘争となり、戦争という形で表面化することとなる。これが、「戦国時代」である。
 応仁の乱(1467?-1477?)といった将軍家や管領家の家督争いが、中央の調整機能を麻痺させ、自己修復を困難にしたに過ぎない。

 好男子ではなく、講談師という奴は、見てきたように嘘を吐くと申しますが、それも時には、真実が混ざっていたりするものであります。

 ある時、というか一人の赤子がおりました。どこにいたかは、とりあえず内緒です。その赤子をこともあろうに、ある神様が何かの弾みに赤子として入っていた籠ごと
「ごめん。間違えて蹴飛ばしちゃった」
で飛ばされたのは、皆さんにとっての正史世界となります。赤子なので、ものごころは付いていなかったと思いますが、この赤子、困った顔のばあちゃんと、神とやらの姿は見えず、声は覚えていたそうであります。
 籠に入ってた赤子であったことから、この世で、施設に引き取られ、井上という施設長さんが、|井上 篭《いのうえ こもる》と付けたそうです。平成とかの御世が始まる頃であったそうです。
 孤児でもって育ち、里親とかいたけれど、何か人と違う違和感がある中で、中学を卒業し、高校生となったそうです。それなりに、普通の生活?を楽しんで、今日から高校生という時、
「やっとみつけたぁ。御免ね」
ひょいっと巨大な手につままれたように、戻されたのである・・・オイッ!

 そのうえ、神様につままれて、なんだか良くわからない空間を通過しているような感じの中で、
「あ、落としちゃった・・・テヘッペロ・・・」
 怒呶々怒呶々怒呶々怒呶々怒呶々・・・殴ってやる!と怒りに任せて、
「ざけんな、ボケぇ!!」
と叫んだそうですが、あっさりと異世界に落とされたしまいました。

 さぁって、始まるよぉ・・・

 ・・・バッシャーンと水飛沫をあげて、落っこった。
 空間から突如として落とされた場所は、そんなに高くもなかったようなのだが、滝壺のある湖で、そのまま沈んでいったので、慌てて泳いで湖面に飛び出たら、なんだか良くわからない柔らかくぷにぷにしたモノを掴んでしまった。
「何しやがるッ」
という女らしき声と共に、ドゴっと馬鹿でかい金棒で殴られたように、なんか吹っ飛ばされた。

「ご、ゴメン! イタァ・・・」
壁に打ち付けられ、痛めたものの、なんとか体を起こした篭は、声のした方を見た。湖から上がって来た女の人を見た。

(女の人の姿は、何も身に着けていなかった。うん。あれは、裸だ。しかも、とっても女性らしいしなやかな曲線を描いて、ボンっ、キュッ、ボンっってこんなのかなぁという見本みたいな裸だった)


「なにをジロジロ見ている。俺のような大女が珍しいか?」

「そうじゃない、綺麗だなぁって、」

 篭の身長は、167cmで70kgと特徴の少ない日本人体型だが、自分で大女と言っている彼女は、頭ひとつ高く、190cm以上はある。高いといえば高いけど、柔らかいし、大きいし、まぁ、体重はちょっとありそうだけど・・・
「何?」
視線を虚空の講談師に向かって飛ばされやすと、あっしゃぁ死にそうです。すみやせん。平謝り致します。m(__)mスミマセン

「綺麗・・・ってあたしがかい」
「うん。なんかとっても綺麗だ」
(ほんとに、凄く綺麗・・・炎が周囲に浮かんでて、白い肌に映えて、黒い髪も艶やかに長くて、瞳が強くて・・・あれ?額に角っぽい赤い突起がある)

 ほい。長い黒髪をオールバックにして後ろで縛っているので、額にある角が目立ちます。鬼族は、古代より倭国に住まう者達で、山々を中心に暮らしておりました。時に、人と交わり、混血が進んでいたりもするので、山岳から平地に居を移した者達も多かったりします。
「これが、気になるかい。鬼族だよ、あたしは」
「鬼かぁ、なんか思っていたのとイメージが違うなぁ・・・こんなに綺麗なんだ」
「・・・嘘ではないみたいだね」
探るような、言葉がでる。
「嘘じゃない。本当に綺麗だもの」
「ま。綺麗と言われるのは、嬉しいもんだけど、あんまりジロジロ見られるのは、気に入らないねぇ」
「ごめんなさい」
慌てて、後ろを向く篭であった。
(体を拭く、衣擦れの音がして、なんか音がエロく感じる)
がちゃがちゃと金属音が響く。
(・・・(??)・・・)
「もう、こっちを向いてもいいぞ」

 そこに現れたのは、和装姿(かっこ美女)に、大きな胸の膨らみに合わせて重ねが朱糸に織られて、腰が絞られた鎧を着けた鎧姿があった。
「格好良いッ」
「そ、そうかい・・・」
なんか、少し照れた感じになった。可愛いぞ
「あたしは井伊の|次郎冠者《じろうかじゃ》だ、お前は」
「|井上篭《いのうえ こもる》・・・良くわからないけど、なんか落とされた」
「確かに・・・あたしが|水垢離《みずごり》をしようと滝に向かったら、落ちてきたからな。ここは洞窟の中の泉だよ、天上があるし壁もあるが、人が隠れられるほどの場所は無い」
「えっ・・・」

 言われて、周囲をキョロキョロすると、炎が浮かんで照らしているが、鍾乳洞の中にできた湖のようだ。天上から落ちる水飛沫が舞って冷たい・・・
「くしゅん・・・寒ッ」
緊張していて気づかなかったが、高校の制服だったんだ。入学式に行く途中で・・・体をつままれた感じで持ち上げられて・・・新品だったんだよなぁ、制服・・・
「その姿は、服のようだな?火をおこそう。温まると良い」
さて、次郎冠者と名乗る女性は、そのまま周囲を照らしていた、火炎を集めて地に置いた。
「妖術・・・鬼だから鬼術かな?」
「ほぉ、昔の呼び名を知っているのか、私は鬼族の血が強く出ているが、天狗の血も混ざっているらしいからな、魔道と呼ぶことが多い」
火にあたりながら、話を始めた。
「お前の格好は、珍しいな。どこから落とされた」
「平成からかな?」
「濡れていると、風邪をひくぞ、脱ぐといい」
「えっと・・・」
まぁ、とりあえず、上着を脱いで、Yシャツを外すとそのまま座ろうとすると、
「ダメだ。まだ脱いでいない」
「え。それは・・・」
「私が見られたのだ、お前も見せろ」
そのまま、後ろに回られ、脱がそうとする。鎧越しなのが、残念だけど、膨らみが判る感じが、とってもヤバイ篭であったが、力が強く、あまり抵抗できず、そのまま脱がされていった。
「ゴメン、ちょっと許して・・・」
「ほぉ、本当に綺麗だと思ったのだな。凄いいきり立ちだ」

 ま。何がとは聞かぬが花というものでしょう。全裸にされて、真っ赤になった篭を背中から抱き寄せ、見下ろしながら、次郎冠者は、いきり立ったモノを眺める。
「あの・・・」
「なんだ」
「恥ずかしいんですけど・・・」
「お前の体は綺麗だな、傷もほとんど無い。私を綺麗といって、いきり立ってるんだ。私は、嬉しいぞ」
「えっと・・・」
「どうだ。お前を抱いていいか」
「ハぁッ・・・何それ」
「良いか、悪いかだ、どっちだ」
「それは、嬉しいですけど・・・」
(なんか凄い、経験するんだ。でもあれ、さっき鎧着けちゃったよね)
「ふ。心配するな。下はすぐ取れる」
しゅるしゅる衣擦れがすると、次郎冠者の下帯が落ちる。袴は着けてなかったらしい。


 そして、篭は押し倒されて、鬼に食われてしまいましたとさ。

 好男子ではなく、講談師という奴は、見てきたように嘘を吐くと申しますが、それも時には、真実が混ざっていたりするものであります。

篭は、次郎冠者に正面から抱きつく感じで、馬に乗せられて、駆け出した。
(お尻が、痛いーーー)
「はは、馬に乗るのは、初めてか」
「は、は。い。」
「少し、我慢しろ、日が暮れるまでには、城に着きたい」
「は、痛ぁ・・・」
「しゃべらなくて良いぞ・・・ははっはは」
声高に叫び、駆け抜けていく。

<閑話休題?>

 なんかわけのわからないうちに、神様らしき存在に蹴飛ばされ、つままれて異世界に飛ばされた僕、|井上篭《いのうえ こもる》は、落っことされた異世界で、美女の艶姿に出逢い、その場でエロイ意味で食べられてしまいました。
(でもその美女は、なんと、鬼だったのです・・・かぁ・・・)
 何か良くわからないまま、ただ呆然と時が過ぎて夜になっていた。人間というものが、想定できない衝撃を受けると、思考回路が停止するといいますが、まさに、そんな感じで過ごした一日だったと思われる。

 目が覚めると、まだ周囲は暗く、傍らにぷにぷにしたものが、頬に当たっていた。あらためて、思い出すと、次郎冠者さんは本当にきれいな女の人だった。大柄なのは確かだけれど、なで肩から胸囲よりもボリュウムのある胸はもの凄く、腰のくびれは引き締まり、腹筋がしなやかに描かれて、豊かだけど張りのある尻。ボン・キュッ・ボンってこんな感じという見本みたいな艶姿だった。
 褥の中で、疲れるまで絞られて、そのまま眠ってしまったものの、胸に頬を挟まれたままで絞められると、そのままあの世に逝ってしまいそうなところで、目が覚めた。
 柔らかな膨らみに包まれて、ようやく、異世界に来たんだなぁと感じた。

「起きたのか?」
「ごめん。起こしちゃった?」
「気にするな、こんなに気持ちが良いのは初めてだったから、嬉しいんだ」
「・・・できるだけ、頑張ったけど、僕、初めてだったから、うまくできたかわからないよ?」
「大丈夫だ。問題ない」
「そぉ、なの」
「あぁ」
軽く、口づけを交わすと、
「神隠しにあったとか言ってたが、どこから来たんだ」
「んー。三千世界っていうか、この世界じゃないところかな」
「ほぉ、三千世界って、そんなにあるのか?どんな世界だ?」
「三千っていうより、無数にあるんじゃないのかな。僕のいた世界では、|戦《いくさ》は、いろんなところで続いているけど、俺が住んでた国は数十年|戦《いくさ》が無かった国だったよ」
「|戦《いくさ》がないか・・・つまらんな」
少し、哀しそうな顔をする。
「|戦《いくさ》が好きなの?」
「好き嫌いというより、困るという方が正しいかな」
「困る?」
「あぁ、あたしは、戦うことしかできぬ。一族を守るためにも、戦って力を示せる世でないと辛いな」
「今は、戦って、力を示せる世界なの?」
「まぁ、戦国の世って奴だからな」
「ねぇ、次郎冠者って名前は、代々、続いているの?」
「ん。代々ではないな。親父殿が御館様に従い、一門衆から嫁を貰って、遠江介を継ぐ|許《ゆるし》を貰ったからな、子供がなかなか生まれなかったから、従兄弟の直親を養子として太郎冠者と名づけた後で、あたしが生まれたので、次郎冠者となって人質として御館様に出された」
「人質だったの?」
(あれ?・・・次郎冠者もそうだけど、井伊の次郎って、井伊直虎だよな。人質とかになってたっけ?)
「あぁ。表向きは、若殿の許婚としてだがな。何かあるのか?」
「ごめん。変なことを聞くけど、貴女の名前は、井伊直虎じゃないのかな?」
「直虎?昔は、虎姫って呼ばれたこともあるけど、女名は祐だし、若殿の名を貰ったから|井伊直真《いい なおざね》だぞ? でも、直虎という名前は格好いいなぁ」
少し、嬉しそうに笑う。
(えっと、確か大○ドラマでやってたのが、井伊直虎だったような気がするけど、遠江の井伊家の女性武将って、直虎だよな?既に歴史が変わってるのかなぁ・・・)
「僕がいた世界でね。昔話に井伊直虎って女武将がいたの。井伊家の女当主ですっごく強かったってお話だったんだ」
「昔話?」
「五百年くらい昔になるかな?正確には良く知らない。当時は、女の人が当主になるのは珍しかったから、有名だったよ」
「すると、お前は、五百年先から来たということか?」
「でも、かなり違うと思うよ。鬼とか天狗は居なかったし・・・この世界には、|渡辺綱《わたなべのつな》っていなかったのかな」
(大江山の鬼退治とか無かったのかな?)
「ん。|渡辺綱《わたなべのつな》って、鬼を嫁に迎えた源氏のことか?」
「鬼を嫁?」
「あぁ、すっごく良い男で、強くて、鬼族の|祐姫《ゆうひめ》を嫁にするために、大江山に住まう鬼族の長|酒呑童子《しゅてんどうじ》と戦い、勝って|祐姫《ゆうひめ》を妻に迎えたという話だ。良く、お婆様が聞かせてくれた、鬼と人を繋いで、渡辺党を組み上げ、内裏警護まで勤めたって話だ」
(良い男って、確か、渡辺綱は、光源氏の実在モデルだったような記憶があるから好い男だったのは間違いないだろうけど、やったことは"鬼退治"だし、そっかぁ、そこから違うんだ・・・)
「お前の世界では違うのか?」
「|酒呑童子《しゅてんどうじ》を倒して"鬼退治"をしたのが、渡辺綱って名前だった」
「"鬼退治"?鬼を嫁に迎えたのに?」
「鬼を嫁に迎えたって話は伝わってない。僕の世界だと、上手く出逢えなかったのかな?」
「そっか、残念だ・・・じゃぁ、人は鬼や狐狸達と一緒には暮らしてくれないのか?」
なんか、すっごく落ち込んでる・・・困った。少し、彼女にぎゅっとして、
「僕の世界では、そうなっちゃったね。だけど、僕は、この世界に来て、あなたに出遭えたよ。僕は、渡辺綱みたいに強くないし、戦には役に立たない子供だけど、|次郎冠者《貴女》が好きだよ」
「・・・すまない。ちょっと子供の頃に夢見た話だったからな。あたしの名前は、大江山の鬼姫からとった"祐"だって、お婆様に聞いてたからな。この世界では、昔、人が鬼姫を嫁に迎えた。今度は、|あたし《鬼》が、|人《おまえ》を婿に迎えてやる」
笑うとなんか可愛い
「可愛い・・・あ、ごめん」
「嬉しいよ・・・」軽く口付けをして、「昔は、背もそれほどで高くなくて、若殿と同じくらいだったから、抱かれたけれど、背が高くなり力も強い大女になってからは、嫌がられたからな」
「許婚だっけ」
「あぁ、今でも駿府や今川の代官がいる浜松では側室扱いだな」
「若殿は好き?」
「ん。妬いてくれるのか?」
「妬けるよ。でも、冠者として仕えているから、仕方ないよね」
「まぁ、今川家に仕えるようになったのは、祖母の代からだが、あたしの男でもあるし、兄上のことでは迷惑をかけてるからな」
「兄上?一人娘じゃ。養子に迎えた従兄弟殿のことか」
「あぁ、従兄弟殿の父上が、小野道高の|讒言《ざんげん》で|謀叛《むほん》に問われた時、|若殿《うじざね》が庇ってくれてな。所領は親父殿に預けられ、父上の直満殿は浜松城預かりとなって、兄上が私の代わりに人質として送られた。本家は廃嫡となったけど、あたしを次期当主にして井伊家を守ってもらった。|千千代《ちずよ》様の助けもあったからな」
「|千千代《ちずよ》様?」
「あぁ。もともと、三河松平党の当主清康様が亡くなられ、広忠様も亡くなられ、残された|千千代《ちずよ》様が、当主となり、あたしと同じに若殿の側室に入った。千千代様は、今は元服して松平次郎三郎元信と呼ばれている。三河松平党の総領姫で。あたしなんかと違って、小柄で可愛いからな、北条から来た正室様と同じく、若殿に可愛がられている」
(あれ。三河松平の総領って、家康だよな?今川義元の生きてた頃に元信って名前で元服したんだっけ。あれ、えっと、時代的には、今川義元が生きていて、氏真が若殿。信長とか秀吉とかいるのかな?)
「|千千代《ちずよ》様が、どうかしたのか?」
「うん。松平の総領は、僕のいた世界だと男だったんだ。織田に捕まったり、今川で人質だったり、子供のときに大変な思いをしていたって話を聞いたことがある・・・」
「大変な思いはしてきたぞ。一度は、養母の父親に裏切られて、織田に人質として送られて、安祥城落城の際に、人質となった信長の庶兄信広と引き換えに今川家の人質になった。今は、若殿の側室と松平党の当主を兼ねているな。」
(あ。側室かぁ、氏真って良い奴なのかな?義元が死んだ後は、ボロボロになったような気がするけど。信長はいるのか・・・桶狭間って何時だっけ?覚えてないなぁ)
「どうした。やっぱり、嫌か?自分の女が他の殿方の話をするの」
心配そうに、のぞきこまれる。
(いや、そりゃ。自分の彼女が、誰かの奥さんって話だから。寝取られ感・・・あれ、僕が寝取ったことになるのかな?それよりも、桶狭間はまだ起きてないみたいだけど・・・そろそろじゃないのか?)
「そりゃぁ、自分の抱いている相手が、他の男に想いを抱くっていうのはキツイけど、それはなんとか我慢する。そうじゃなくて、気になることがあるんだ」
「気になること?」
「三河の隣は、尾張で、そこの当主が信長なんだよね」
「あぁ。一時は、三河安祥城を奪って、制圧されかけていたが、今では三河を雪斎師に奪われ、知多を含めた尾張の南側が徐々に御館様に抑えられてきている」
「津島は?」
「あぁ、津島の湊は、まだ織田方だな」
「知多を含めて、伊勢湾の海が持つ利益を奪うと、織田と戦になる」
「そうなのか?」
「うん。織田の力は、尾張の田畑と津島からの運上金でまかなっている。津島の運上金は、伊勢湾を航行する船が生み出す利益。これを奪われたら、織田は、守護代としては家格を維持できない。きっと死に物狂いで戦うことになる」
「ほぉ、その鍵が津島湊ということか」
「うん。伊勢湾を押さえるために、尾張に今川勢が大規模な戦を仕掛け、義元様自らが出陣されて、今川勢が尾張に広範囲に占領展開している隙間を浸透突破して、義元様の本陣が襲われて、義元様が討死にする」
「御館様が討死だと!」
起き上がって叫ぶ
「虎様。何かありましたか?」
外から声がかかる。月明かりに、狐の影姿が障子に映る。(傍にいたの?)
「あ。すまん。|彩女《あやめ》か?」
「はい。お起きになられた様子です。何かお持ちしますか?」
「いや、大丈夫だ。すまん。|狗賓《くびん》はいるか?」
「は。お傍に・・・」
(床下も?忍者っていたのかな?)
「すまぬ。しばらくお前以外は、誰も近づけないでくれるか?」
「はっ」
「|彩女《あやめ》も他の者を下げてくれ。炉壷は大丈夫か?」
「なんの。"四方盃"程度、私一人で十分にございます」
「すまん。頼む」
「ごめんね」
「いや。あたしが、声を荒げてしまっただけだ。宵闇であったことが幸いしたな。だが、それがお前の世界でおきたことなのか?」
「うん。僕の世界での起きた出来事だとそうなっているけど、どこまでがここに起きるかは判らないよ。既にかなり史実と違ってきているから」
「あぁ。それでも、尾張との|大戦《おおいくさ》で敗れるのか?」
「うん。だけど、軍略では義元様の圧勝だったから、少数の部隊で、軍の間隙を抜けられなければ、負けたりしないとは思う」
「つまり、織田は、軍の間隙を突くということか」
「僕の友達が、駿府の出身でさ、義元様が好きで、信長に負けなければ、今川が幕府を創ったんだって言うのを延々と説明されたことがある」
(うん。間違ってないハズ)
「ははは。だとすれば、織田に負けなければ良いってことだな」
「うん。信長という天才と、義元という天才がぶつかったのが、尾張での戦いなんだって」
「信長は、"うつけ"って呼ばれているぞ」
「そうでもないさ。あれでも、バラバラになりそうな尾張一国をなんだかんだと、抑える力を得ているんだよね」
「そうだな。確かに、尾張をまとめ、子飼いの兵を集め、少数だがかなりの戦力を集めている」
「駿河、遠江、三河に加え、尾張、美濃、近江を征すれば、東海道、東山道、北陸道を抑えられる。つまりは、東国を威圧する力を得る。後は、京より西を征すれば、東国を下して、天下を征せられるって言ってた」
「お前の世界で、実際に天下を征したのは、信長なのか?」
「ん。今川を破り、松平や浅井と同盟、斉藤、六角、朝倉を征して、京に乗り込み、本願寺や毛利、長曾我部といった西国を叩こうとしたところで、謀叛にあって敗死。信長の部下だった秀吉っていうのが、信長の仇討ちをして、天下を取る」
「井伊は、どうなる」
「今川が敗れた後は、|千千代《ちずよ》様に仕えて、代々、天下を支える家となる」
「|千千代《ちずよ》様?」
「うん。秀吉は、後継ぎに恵まれなかったので、後継者争いが起きて、最終的に天下は、|千千代《ちずよ》様が取る」
「今川が敗れたとすると、氏真様は、死ぬのか・・・」
「違うよ。氏真、様は、生き残って、|千千代《ちずよ》様の主家として、確か朝廷との仲介とかの役職に就いたと思う」
(くそぉ。やっぱし、上手く言えない)
「そうか。氏真様は、言いにくいか」
「うん。やっぱし、想い人の敵って感じがして、ごめんね」
「仕方ない。お前は、あたしの男だけど、あたしは、若殿の女でもある。でも、|井上篭《いのうえ こもる》」
真っ正面から僕を見据える強い目。
惹き込まれそうに、強くて魅力的で、褥に座り、衣を着ていない白い肌が、宵闇に浮かぶ。大柄で、頭一つ上から見下ろされるけど、真剣な瞳の中に魅入られるように答える。
「あたし|井伊直真《いい なおざね》は、|井上篭《いのうえ こもる》を男とし、生涯離れぬことを誓う。この身は、主人もいるし、戦に敗れれば、雑兵に犯されることもあるだろう。それでも、お前をこの身の半身として誓いたい、良いか」
「僕にできることは判らない。何かの役に立つかも判らない。それでも、貴女が望むなら、僕、|井上篭《いのうえ こもる》は、|井伊直真《いい なおざね》の男になることを誓う」
「「ありがとう」」
そのまま全裸の男と女は、近づいて、口づけを交わす。

「あ。でもさ、直真って言い難いから、"|祐《ゆう》"って呼んでも良い?」
「褥の中でなら、あたしはお前の女だ。良いぞ」
「|祐《ゆう》・・・」
「|篭《こもる》・・・」
ちょっとkick offの雰囲気から、二人の世界に入っていく

そして、二人は、とっても仲良しになったそうな。

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 さて、これで序章は終わりとなります。
 あやかしを含めた戦国乱世を描ければと思っております。
 井伊家一党が、遠州を支配した状態で、今川義元の配下となると、三河松平と同じく、直虎(この話では直真)は人質として駿府に置かれ、氏真の側室になっていたように思います。直親が養子になっていて、側室ということになると、小野道高の讒言から謀叛まで持っていくのは難しくなるので、廃嫡から、直虎(この話では直真)を次期当主として、血縁を結ぶという流れになるとしてみました。


<追伸>
 なんかしらないうちに、井伊直虎さんが、某国営放送の大○ドラマで主役なのだそうです。好男子ではなく、講談師という奴は、見てきたように嘘を吐くと申しますが、それも時には、真実が混ざっていたりするものであります。
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2016年2月17日 (水)

もののけ達と共に生きるために

知的生命体の規定:
「言語を有し、操作可能な上肢を有する生命体は、知的生命体として認める」白鳥座憲章
 この文章は、ロバート・A・ハインラインの「ラモックス」という作品での規定であるが、個人的には気に入っている。知的生命体同士の規定としては、佐藤大輔さんの「皇国の守護者」に描かれている、<大協約>の雰囲気が好みである。
 白鳥座憲章は、生命体は、知的ではあるが、言語を有し、操作可能な上肢を有することができれば、一定のコミュニケーションが可能と言うのが、考え方の根底にある。これ自体には、それほど大きな違いは無いように思う。ただ、操作可能な上肢の部分については、類似したモノであれば良いように思う。ここらへんは、どの程度までコミュニケーションが可能であるかどうかに依存してくるのだと思う。
 <大協約>は、生命体の種としての保存を基準として、戦争の制約条件としている。これは、異種族間の殲滅戦を回避する手法として用いられている。ここら辺が、一番の好みなところである。

 様々なライトノベルでは、鬼や天狗といった様々な"もののけ"達が、あたりまえのように登場する。敵役として、または主役として、共に生きるモノとして描かれるには難しいとは思う。
 日本人というのは、世界でもっとも成文法を嫌う国であるように思う。鬼や悪魔、さらにはロボットや異星人であっても、"友達"や"恋人"であると言い切る国は珍しい。そして、"友達"や"恋人"であろうと、殺し合い、憎み合えるのも、また、日本人なのだと思う。

2016年1月27日 (水)

戦国ifは、徒然に

 転生歴史モノとしては、WWⅡよりは戦国モノが多いかなぁと感じています。
 織田信長とかは、人気があって、非常に多くのバリエーションで様々にメディア化されている作品であろうと思います。女になって映画にでてみたり、女性武将の一人でアニメになったりと様々です。
 佐藤大輔先生の、本能寺で死ななくて、生きていたifで、大航海時代に乗り出し、イスパニアとの戦争に移っていくという話が気に入っています。続編はでないのかな?
 腕白関白とか、狸と瓢箪のそる様も良い感じの作品だと思います。

 書籍として購入しているのは、佐藤大輔先生「信長新記」とか、昔はゲームで「家康最大の敗北」とか「関が原」とか買ってました。「関が原」だと、様々なifシーンが、イベントカードにあるので、面白いですよ。後は、時折、歴史読本の
雑誌に掲載されたり、書籍を買ったりしていました。

「小説家になろう」関連だと
 そる様の「腕白関白」,「狸と瓢箪」
 夾竹桃様の「戦国小町苦労譚」
 三田弾正様の「三田一族の意地を見よ」
あたりを購入しています。電子書籍版になっているのは、電子書籍で買ってますねぇ。そる様の「腕白関白」は、小説になろうで、別エンディング版があるので、そっちも良い感じですけど、やっぱし書籍版の方が良いですねぇ・・・

2014年4月 2日 (水)

”憤怒” その3

 凄まじいまでの殺気と怒気が渦巻くようイットウサイから立ち上る。
 威圧されたかのように、少しづつ下がっていく・・・後方の影もその気配から迷いが生じている。自分が気おされたことを認めぬように、少し前に出ようとする。離れた位置から、魔力を込めて、風刃を放とうと準備をしている。
イットウサイは、憤怒の中で冷静に見据え、自分の魔力を、右片手上段に構えた打刀に注ぎ込んで剣閃を構築する。
「一手、ご教授いたす」
言いながら、風刃の見えない刃を、右片手上段の打刀に構築した剣閃を放って斬り裂く。風刃を斬り裂き、放った者の頬先を剣閃が通過し、うっすらと斬撃の跡が奔り、少し間をおいて血が滲みだす。
 再び、右片手上段の打刀に魔力を注いで、剣閃を構築する。
「いかがか。まだ続けられるというならば、今度は頬では済まぬ。我が、剣閃は、離れた相手であろうと、放たれた魔導の技であろうと斬り裂くが宜しいか」
「ちィっ。引けっ、引けぇッ」
一斉に踵を返して、駆けだしていく。イットウサイは、右片手上段に打刀を構えたまま、闇を見据える。
 相手の殺気が闇に消え去っていくと、すぅっと、左手てヒールをかけていた少女が、意識を失う。イットウサイは、少女を左手で支えながら、
「さて、どうしたものかな・・・」
打刀を鞘に納めて、少女を抱き上げ、屋敷へと向かった。

2014年3月28日 (金)

”憤怒” その1

 大川を北へ少し遡っていくと、加門の大池があって、周囲には茶屋やいくつかの庵が建っている。庵は、"契約"の結果造られた施設で、戦災孤児達を預かっている養育園のことである。大池の周りにも庵がいくつかあり、竜王とでも最大規模の庵街となっている。子供達は、畑仕事や、大池や大川で川魚を捉えたり、庵で読み書き算学を習いながら十歳くらいから、竜王都の商家や工家などに奉公に出るのが一般的になっている。
 大池には、様々な川魚が取れることもあって、格好の釣り場となっている。南北に走る街道を土手がわりにして、池の周囲を囲っている。竜王都最大の用水池の一つである。土手から下りてきたら、
 イットウサイは、宵闇に小さな魔石光を灯らせて、釣り糸を垂れていた。今宵は、妻のマーヤが咳き込み、少し寝付けなかったこともあって、休ませる意味もあって、夜釣りに出掛けたのだ。マーヤを心配しながら、釣り糸を垂れていると、何匹かのフナがかかり、朝飯に良いなぁと思いつつ、釣りを楽しんでもいた。
 そこへ、北側の街道を殺気が流れ、怯えて逃げる気配と共に駆けてくる。脇に置いた打刀をとって、気配の方へ駆ける。

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